冷酷な騎士団長が手放してくれません
驚いたソフィアは、跳ねるように一歩後退した。


バルコニーの鉄柵の前に男がしゃがみ込み、ソフィアを見上げている。


「珍しいな。『獅子王物語』を諳んじる令嬢なんて。あれは、女が読む話ではないだろう」


スッと、男が立ち上がる。見上げるほどに背が高く、スラリとした体躯だった。漆黒の髪と瞳。バランスの取れた顔だちからは、妖艶な色気を感じた。


「戦いの物語は、退屈しないから面白味があります。女が読む恋物語なんて、うんざりですわ」


「ははっ、面白いお嬢さんだな」


男が笑うと、妖艶な空気が一転して無邪気になる。だが、どこか弄ばれているような、侮れない雰囲気があった。







「女は、恋にうつつを抜かすものだと思っていた。戦いを好む野蛮な女もいるんだな」


伸ばされた男の手が、ソフィアの髪に触れる。流れた指先が、ソフィアの顎先を僅かに持ち上げた。


突然のことに、ソフィアは凍り付いたように男を見つめることしか出来ない。


「野蛮なわりに、随分美しい」


男が、瞳を細める。


「名前は?」


「……ソフィア・ローレン・アンザム」


「なるほど。アンザム卿の娘か。あの男の娘なだけあって、知性に溢れている」


辺境伯であるお父様を、あの男呼ばわり? むっとしたソフィアは、男を睨んだ。


「あなたこそ、どなた? 随分高慢な口ぶりだけど……」






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