冷酷な騎士団長が手放してくれません
その時だった。


「ソフィア様……!」


草原の向こう側から、息せき切ってこちらへと駆けて来る者がいる。幼い頃から馴れ親しんでいる、侍女のアーニャだった。


「大変ですっ、ソフィア様……!」


ソフィアの目前でようやく足を止め、ぜえぜえと肩で息を吐いたアーニャは、信じられないというように両目を見開いて言った。


「奥様が、至急邸に戻るようにとおっしゃっています……!」


「どうして?」


ソフィアが首を傾げれば、


「来たのです、お手紙がっ!」


興奮しているアーニャは脈略のない言葉を捲し立てた。


「手紙?」


「ロイセン王からです。王太子様の婚約者として、ソフィア様を城にお迎えしたいという内容のようでして……」








ソフィアの視界が、暗く閉ざされていく。


「ロイセン王国の、王太子様……?」


ロイセン王の子息であるノエル王太子は、確か四歳になったばかりのはず。


複雑な想いが、ソフィアの胸の内に溢れ出していた。
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