冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ソフィア、あなたはなんて運がいいの……!」


邸に戻れば、案の定母のマリアは、玄関ホールで手紙を片手に小躍りするように浮かれていた。


「相手は、いずれはこの国の王になる方ですよ! カダール公国の王子との婚約が白紙に戻った時は、いっそ尼僧にでもさせようかと本気で考えたほど苦しみましたが、さすがは私の娘。これで、全てが安泰ですわ!」


いまだ状況が呑み込めていないソフィアは、人形のようにその場に立ち尽くす。






「でもさ、母上」


代わりに口を挟んだのは、その場に居合わせたライアンだった。


「王太子様は、ようやくおむつが取れた年頃の子供じゃないか。結婚しても、ソフィアは妻というより子守りのような扱いを受けるのでは?」


「何を言っているのです。それでも、この国の王太子様であることは変わりはありませんわ。それに心配しなくとも、十五年も待てば立派な男性になられることでしょう」


「だけど、その頃ソフィアは何歳だ? 男はだいたい、年増より若い女の方がいいに決まっている。年頃になる頃には王太子様は若い妾を可愛がって、ソフィアには見向きもしなくなるんじゃないかな」


「まあ、ライアン。なんてはしたないことを口にするの!」






マリアとライアンのやり取りを、ソフィアはまるで他人事のように聞いていた。


相手が王太子だろうと子供であろうと、当のソフィアにはどうでもいいことだった。


ソフィアが心に決めた相手は、この世でただ一人だからだ。彼と結婚出来ないのなら、一生を一人身で過ごすとソフィアは既に心に決めていた。


家の安泰を優先し、無理をして婚約を進めようものなら失敗するであろうことを、ニールの一件で学んだからだ。


リアムへの強い想いを自覚している今、ソフィアに迷いはなかった。

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