冷酷な騎士団長が手放してくれません
政務のために赴かねばならない父のアンザム卿とは違って、ソフィアはロイセン城に来るのは初めてだった。


ロイセン王は夜会を好まないらしく、滅多に催さない。そのためソフィアのような貴族令嬢は、王に謁見する機会が殆どないのだ。






見上げるほどに大きな鉄の門をくぐれば、目を瞠るほどに美しい庭園が広がっていた。木々も花々も造園師の手によって華麗に整備され、芸術的な美しさを保っている。


門扉を抜けても、城までは大分距離があった。今さらながら、ソフィアはロイセン城の壮大さを実感する。


案内されるがままに、見事な天井画の広がるホールを抜け、ステンドグラスの美しいギャラリーを歩んだ。


ロイセン王国は、ガラス産業で名高い。世界髄一を誇る技術によって埋め込まれたガラスは、輝く虹色の光を大理石の床に落とし、ソフィアはまるで夢の中を歩んでいるような心地になるのだった。





「こちらでございます」


王の間の入り口の前で、案内人は足を止めた。両開きの屈強な扉の隣には、金の額縁の大きな絵画が飾られている。


この国を強大にした伝説の獅子王と、その妻アメリの肖像だ。赤い軍服に身を包みきりりと背を伸ばした獅子王は、絵の中から魅惑的な微笑を浮かべてソフィアを見つめていた。


その隣にいる妻のアメリは、色白の肌に絹のような黒髪を束ねた、聖母のように美しい人だった。寄り添う彼らの様子から、二人がいかに愛し合っていたかが伝わって来る。


ふと、ソフィアの胸に寂しさが込み上げてきた。


獅子王の姿絵に、今はどこにいるかも分からないリアムの面影が重なったからだ。


初めてリアムを見た時も思ったが、やはりリアムは獅子王に似ている。リアムよりも野性味があり、男らしい猛々しさを感じはするが、顔立ちには共通点が多い。


リアムに似た瞳で、幸せそうな表情を浮かべ、私を見ないで欲しい。


そんな行き場のない心苦しさを抱え、ソフィアは開かれた扉の向こうに足を踏み入れた。
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