冷酷な騎士団長が手放してくれません
王の間は、驚くほどに広かった。真っ赤な絨毯が玉座に向かって真っすぐに伸び、その両側の壁にはギャラリー以上に巧妙なステンドグラスの窓が並んでいた。


窓から入り込んだ鮮やかな光が、金の幾何学模様の天井に反射して幻想的なプリズムを作り出し、思わず息をするのを忘れるほどに美しかった。





呆然と光の中を歩んでいると、足もとに何かがぶつかった。見れば、あどけない黒髪の少年が、ソフィアのドレスに抱きつきニコニコと見上げている。


「あなたは、だあれ?」


少年は、胸もとに豪華な銀色の模様の装飾された、高価そうな水色の上着を着ている。一目見て、ソフィアは彼がノエル王太子だということに気づいた。


膝間づき、ソフィアはまだ年端もいかぬ王太子に服従の姿勢を見せる。


「ノエル殿下。私は、ソフィア・ローレン・アンザムと申します。この度は私のようなものにご求婚くださり、心よりお礼申し上げます」


ソフィアのかしこまった挨拶に、ノエルはどんぐりのような目をぱちぱちと瞬いた。まるで、ことの成り行きが分かっていない様子だ。


「きゅうこんって、何?」


「結婚を、申し込むことでございます」


「ぼくは、あなたとけっこんするの?」








その時だった。王の間いっぱいに届くほどに、盛大な笑い声が響き渡る。


「よくぞ来られた、ソフィア・ローレン・アンザム。だが、相手を間違えておるぞ」


笑いをこらえているような表情を浮かべ、芝居でも見るように玉座から身を乗り出してこちらを見ていたのは、他ならぬロイセン王その人であった。


臙脂色のマントを肩に掛け、金色の王冠を被ったロイセン王は、笑いをこらえるという世俗的な表情を見せても、圧倒されるほどに高貴なオーラを醸し出していた。


その隣で涼やかに微笑んでいる王妃にしてもそうだ。特別派手な飾りのない薄茶色のドレスでも、持ち前の気品は薄れることなく、むしろ威力が増して見える。


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