冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアは慌てて玉座の前に行くと、スカートを持ち上げ膝間づいた。


「この度はお招きくださり、光栄に思っております」


「君に会えるのを、心待ちにしていたよ。ダンテの言う通り、とても美しい女性だ」


ロイセン王は、黒色の顎髭を撫でながら瞳を細めた。




(ダンテ……? ダンテって、まさか……)


聞き覚えのある名前に、ソフィアは違和感を覚える。


すると、玉座の後ろに控えていた衛兵の一人が前に進み出た。


ソフィアは、思わずあっと声を上げる。


それは、見紛うことなきリアムの重臣のダンテだった。後ろで束ねた赤毛も、精悍な顔つきも、リルべを出発した時とさほど変わりがない。


「ダンテ、生きていたのね……!」


「諸事情がありまして、ご心配をお掛けしました。この通り、無事でございます」


「無事だったのなら、何よりだわ。けれど、どうしてロイセン王国の騎士の身なりをしているの?」


ダンテの着ている獅子の紋章の縫い付けられた朱色の上着は、ロイセン王国の騎士だけが着ることを許されるものだ。






「それは、彼が我が国の騎士だからだよ。彼は、我が国に忠誠を誓った優秀な騎士の家系だからな。彼自身も騎士になり、かれこれ二十年にもなる」


「二十年……?」


ダンテの代わりに返事をしたのは、ロイセン王だった。事情が呑み込めず、ソフィアは混乱する。


(どういうこと? 彼は、十年前からお父様の配下にいたはず……)


まるで、ソフィアの混乱を承知しているかのようにロイセン王は微笑んだ。


「それに、真の王太子の護衛も、長い間彼に引き受けてもらっていた」








そこでロイセン王は、ソフィアの方に身を乗り出した。


「これから、君にある人物を会わせようと思っている。だが、その前に話しておきたいことがあるんだ」


「はい……」


何一つ理解できないソフィアは、困惑の表情を浮かべることしか出来ない。









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