冷酷な騎士団長が手放してくれません
その時、バルコニーの扉が開いて、中年の男が入って来た。
正装ではなく、緑色のマントを纏ったその男は、どこぞの貴族の従者のようだった。従者はソフィアに絡んでいた男の手前で膝をつき、頭を垂れる。
「殿下、ようやく見つけました」
ソフィアは、目を見開く。殿下ということは、まさかこの人が噂のニール王子……?
暗いし、奇怪な出現の仕方だったので彼の全身にまで目がいかなかった。よく見れば、金ボタンの装飾された高価そうな藍色のジャケットを身に付けている。シルバーのベルトには見事な模様が彫り込まれ、腕の立つ職人による特注品だということがうかがえた。
そして胸もとにあるペガサスの紋章は、隣国カダール公国のシンボルだ。
王子と気づかず無遠慮な口を聞いてしまったことを、ソフィアは後悔する。王子であれば、もちろん辺境伯の父よりも身分は上だ。ソフィアが、軽々しく口を聞いていいような存在ではない。
「リンデル嬢が、殿下をお探しです。殿下に、ダンスの相手をしてもらいたいご様子です。リンデル嬢だけでなく、他のご令嬢も」
従者は、機械的に要件を伝える。
「そうか。探させてすまなかったな、アダム」
ニール王子が、柔らかな笑顔を従者に向ける。
「だが、お断りしろ」
「ですが、クラスタ家のリンデル嬢は、カダール家とは切っても切れぬ縁。不躾に断ることなど出来ません」
「だったら、こう言え。俺は今日、このアンザム家のソフィア嬢とだけ踊る、と」
正装ではなく、緑色のマントを纏ったその男は、どこぞの貴族の従者のようだった。従者はソフィアに絡んでいた男の手前で膝をつき、頭を垂れる。
「殿下、ようやく見つけました」
ソフィアは、目を見開く。殿下ということは、まさかこの人が噂のニール王子……?
暗いし、奇怪な出現の仕方だったので彼の全身にまで目がいかなかった。よく見れば、金ボタンの装飾された高価そうな藍色のジャケットを身に付けている。シルバーのベルトには見事な模様が彫り込まれ、腕の立つ職人による特注品だということがうかがえた。
そして胸もとにあるペガサスの紋章は、隣国カダール公国のシンボルだ。
王子と気づかず無遠慮な口を聞いてしまったことを、ソフィアは後悔する。王子であれば、もちろん辺境伯の父よりも身分は上だ。ソフィアが、軽々しく口を聞いていいような存在ではない。
「リンデル嬢が、殿下をお探しです。殿下に、ダンスの相手をしてもらいたいご様子です。リンデル嬢だけでなく、他のご令嬢も」
従者は、機械的に要件を伝える。
「そうか。探させてすまなかったな、アダム」
ニール王子が、柔らかな笑顔を従者に向ける。
「だが、お断りしろ」
「ですが、クラスタ家のリンデル嬢は、カダール家とは切っても切れぬ縁。不躾に断ることなど出来ません」
「だったら、こう言え。俺は今日、このアンザム家のソフィア嬢とだけ踊る、と」