冷酷な騎士団長が手放してくれません
「大丈夫よ、アーニャ。帰ったらすぐに残りのお勉強をするから、心配しないで」


「ですが、また馬で出かけるおつもりなのでしょう? 馬に乗るなど、男のすることです。アンザム家の令嬢たるかたが、なさることではございません。このことが知れたら、婚約に差しさわりが出るかもしれないというのに……」


「婚約なんて、まだしてないじゃない」


「ですが、お嬢様はもう十七歳ですし、そろそろそういうお話も……」


「なら、自分で馬に乗らなければ良いのでしょう? では、リアムに乗せてもらうわ。ね、リアム?」


「かしこまりました、ソフィア様」






背後から、ふいに聞こえた声にアーニャは肩を竦ます。いつの間にか、廊下の壁に沿うように騎士団長のリアムが立っていた。


金の刺繍の施された黒い上着は、太陽の光のようなリアムの髪色に怖いほど似合っている。


(訓練中のはずなのに……)


驚くアーニャだったが、いつものことなので口にはしなかった。このリアムという男は、いつどこであろうと、ソフィアが呼べばすぐに現れる。まるで一日中ソフィアを監視しているようで、アーニャは時々薄気味悪くなるほどだった。


リアムを見つけたソフィアは彼に近づくと、微笑んだ。


「では行きましょう、リアム」


「おおせのままに」


洗練された美術品のように整った顔を綻ばせ、リアムはソフィアに従う。ちょうど主人に忠誠を誓った崇高な犬が、そうであるように。
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