冷酷な騎士団長が手放してくれません
「……え?」


ソフィアが驚きの声をあげれば、ニールが彼女に向けて恭しく頭を下げる。


「申し遅れました。私は、カダール公国の第一王子、ニール・アンダーソン・カダールと申します」


どうして気づかなかったのだろう。彼の動き一つ一つには、特別な品がある。仄かに香る柑橘系のオーデコロンが、優美さをよりいっそう盛り立てていた。


「ごめんなさい。私、殿下に向かって何て口の聞き方を……」


「気にしていない。妙な気遣いは止めてくれ」


「でも……」


「君の本性が野蛮なのは知っている。今さら、どんなに令嬢らしく振舞っても手遅れだ」


クス、とニールが笑った。


小馬鹿にされているようで、ソフィアは面白くない。唇を尖らせ、ニールと真正面から向き合った。


「では、殿下に遠慮はいたしません」


「上出来だ」


ニールは満足げに微笑むと、深々と腰を折り、ソフィアの手を取る。


「それでは、ソフィア嬢。今宵は、俺と踊っていただけませんか?」
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