冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアの手を取り、ニール王子がバルコニーから颯爽と現れるなり、会場はざわめきに包まれた。


令嬢たちの射るような視線が、ソフィアに刺さる。扇子越しに、ヒソヒソと耳打ちをし合う婦人たちもいた。


もちろんソフィアは、ダンスは初めてではない。幼い頃から厳しくレッスンを受けて来たし、晩餐会や舞踏会でも幾度も踊って来た。けれども、こんなに大勢の人々に注目されている中で踊るのには抵抗がある。



かといって、相手は隣国の王子。無下に断れば、父であるアンザム卿の顔に泥を塗ることになってしまう。







音楽隊が奏で始めたのは、ガヴォットだった。管弦楽が主流の明るい曲調で、テンポ良く踊れるのが特徴だ。


「上手いな」


「ダンスは、子供の頃から一番好きな習い事ですから。本当は、剣術の方が好きですけど」


「剣術?」


ソフィアの手を取りながら、ニールが目を見開いた。それから、ははは、と声を上げて笑う。


「驚いたな。『獅子王物語』の次は剣術か。とんだ伯爵令嬢だ。剣術なんて、誰に習った?」


「リアムにございます」


「へえ」


ガヴォットのリズムに合わせて、ソフィアはくるりと回転する。前に向き直った時、思いがけずニールの顔が間近にあった。


何もかもを見透かしそうな、漆黒の理知的な瞳。ソヒィアは思わず、息を呑んだ。


「リアムというのは、あの派手な金髪の男か? どうやら、騎士のようだな」


「はい。どうしてお分かりに?」


「さっきから、俺を食い入るように見ている。彼の視線に刺されて、俺は殺されそうだ。彼は、君の恋人か?」
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