冷酷な騎士団長が手放してくれません


葦毛の馬に跨り、ソフィアはリアムとともに草原を駆け抜ける。ソフィアの背後からでも、細く筋肉質な腕を伸ばし、リアムは難なく馬を操った。


リルべは、恵まれた土地だ。通年して気候が安定し、トウモロコシや小麦など、作物が豊富に摂れる。水は清らかで、緑も濃い。ロイセン王国の中では、一番魅力的な領土だと云われている。


エメラルドグリーンに輝く湖の畔で、リアムは馬を止めた。そこがソフィアのお気に入りの場所だということを、知っているからだ。


「リアム、今日も剣を教えてちょうだい」


「かしこまりました。ソフィア様」


粛々と頭を垂れると、リアムは鞍に提げた皮袋から、小さめの騎士団員の衣服と剣を取り出した。


勉強の息抜きがしたいと、以前からソフィアは時折リアムに剣術の稽古を要求した。


辺境伯の令嬢が、剣を持ち歩くことなどあり得ない。それに、ドレスでは剣を振り回せないから、動きやすいズボンの着替えがいる。これは全て、リアムがソフィアのために内密に用意したものだ。







ソフィアは、着替えのために湖畔に広がる茂みに身を隠した。リアムも、ソフィアに付き従う。令嬢の着るドレスは重く、一人で脱ぎ着するのは困難だ。いつもはアーニャが手伝ってくれるが、ここではリアムがその役割を担う。


深緑色のドレスのホックを外し、ペチコートを脱がせば、肌着が姿を現した。ミルク色のリネンの下着は、体のラインが浮かぶほどに薄い。袖からは、ソフィアのはっとするほど白い二の腕が姿を表している。


嫁入り前の貴族の娘が、男の前でするような恰好ではない。アンザム辺境伯がこのことを知ったら、泡を吹いて卒倒するだろう。


だが、リアムは幼い頃から気心知れた仲なので、ソフィアに羞恥心はなかった。淡々と作業をこなすリアムにしても、恐らくそうだろう。


ズボンを引き上げた時、リアムの指先がソフィアのウエストに触れた。


「ソフィア様、お痩せになりましたか? 腰が、壊れそうなほどに細い」


「アーニャが、着付けの時にいつもウエストを締め付けてくるのよ。きっと、そのせいだわ。見た目を綺麗にして、素敵な方に見染めてもらうようにってうるさいのよ」




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