冷酷な騎士団長が手放してくれません
数日後のことだった。


朝からのうんざりするような稽古ごとに疲れ、ソフィアはアーニャの目を盗んでまたリアムと湖畔に来ていた。


雲行きが怪しくなり、そろそろ戻ろうかと考えていたところに、邸の方から馬で駆け付けて来る者がいる。


それは、騎士のダンテだった。






「リアム様、ソフィア様! やはり、ここにいらっしゃいましたか!」


ダンテは馬から降りると、リアムとソフィアの前で頭を垂れる。


ダンテは肩までの赤毛を後ろに束ねた、精悍な顔つきの男だ。年は、おそらく三十過ぎだろう。


この男は、ちょうどリアムがアンザム邸に来たのと同時期に雇われた。


雇われ当初から驚くほど腕の立つ男で、リアムに剣術を仕込んだのもダンテだ。


初めはリアムの兄のような存在だったが、いつの頃からか立場が逆転し、今ではリアムの忠実な部下におさまっている。







「奥様がソフィア様をお呼びです。至急、戻られるようにと」


ソフィアは、身の凍る思いがした。


晩餐会での失態以来、母マリアのソフィアへの風当たりは冷たい。


おそらく、また何か厳しいお叱りを受けるのだろう。


思い当たることと言えば、こうしてちょくちょくリアムと湖畔へ出かけることだろうか。


権力に甘んじる気質の母マリアは、騎士に過ぎないリアムのことをあまり好きではないようだから。



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