冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ソフィア、どこへ行っていたのですか!? 大変なことが起こったというのに!」


ソフィアがリアムとダンテを従え恐る恐る邸に戻ると、玄関ホールで待ち構えていたマリアが駆け寄って来た。


鬼のような形相の母を想像していたのに、その表情は花が咲いたように明るい。リアムと出かけていたというのに、そのことに関しては小言を言う気配すらなかった。


「見てちょうだい、これを! さすが私の娘ですわ!」


マリアが差し出したのは、ペガサスの紋章が刻印された白い封筒だった。中には、金色の枠で縁取りされた、高価そうなメッセージカードが入っている。


「ニール王子からのお手紙です。今度の金曜日に開かれる、文学サロンへのお誘いのようよ。やはり王子は、あなたのことをお気に召していらしたのね」


確かに、そんな話をダンスの最中にニールと交わした気がする。『獅子王物語』を書いたアレクサンドル・ベルの出版前の新作を入手したから、読みに来ないかと。


魅力的な話ではあったが、あんなそそうを仕出かしたあとだし、招待状は来ないものだと思っていた。だが、律義なニールは覚えていたらしい。







「ニール王子は文学好きで、定期的に秘密の文学サロンを催されていると聞いたことがあります。けれどもその文学サロンには、王子の気に入った方しか招待されないのだとか。それも年配の貴族や文学者など男性ばかりで、令嬢が招待されることはまずないと伺いました。これは、王子があなたに好意を寄せている証拠ですよ」


興奮しているマリアが、饒舌に話し続ける。


断ることなど、あり得ない雰囲気だ。実際ソフィアも、アレクサンドル・ベルの新作には興味がある。


だが、ダンスの時のひたむきなニールの視線を思い出すと、また拒絶反応が沸き起こった。


あの目を向けられたら、どうして良いのか分からない。どう振舞ったら良いのか、分からない。


助けを求めるように、後ろに控えているリアムを振り返る。


勘の良いリアムはソフィアの視線に気づいている筈なのに、瞳を伏せたまま上げようとはしなかった。


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