冷酷な騎士団長が手放してくれません
招待状をきっかけに、マリアに小言ばかりを言われていた陰湿な日々が一転した。


マリアは、目に見えて上機嫌だった。そして、文学サロンの開催日に向けて、娘のソフィアを飾るのに必死だった。


ヘチマから抽出した美容液で毎日のように全身マッサージをさせ、髪には紅花のオイルを揉み込んで艶出しに励んだ。


髪や体だけではない。髪飾りやドレスなど、身に付けるものにもこだわり、高級品や腕の良い仕立て屋を探すのに時間を費やした。







ある日、ソフィアはアーニャとリアムを連れ、王都リエーヌに来ていた。


リエーヌで評判の帽子屋に、文学サロンに出向く際被る帽子を買うようにと、マリアに言付かったためだ。


リルべからリエーヌまでは馬車で一日ほどの距離があるが、晩餐会や祭りに買い物など、ソフィアは年に数回出向くことがある。








「シルビエ大聖堂のある広場に、馬車を付けてちょうだい。帽子屋へは、そこから歩いて五分だから」


アーニャが、馬車から身を乗り出し御者に道案内をしている。向かい合わせの席には、御者側の座席にアーニャとソフィアが、反対側にはリアムが座っていた。


城へと続く道は色鮮やかな煉瓦作りになっていて、町の活気を盛り立てていた。王都リエーヌは、ガラス細工で世に名高い。


町のシンボルであるシルビエ大聖堂だけでなく、役所や図書館などあらゆる建物が、色とりどりのステングラスで優美に飾られているのが特色だ。


色彩の豊かさから、リエーヌは虹の都と呼ばれることがある。


現ロイセン王の祖父、獅子王がロイセンを強大な王国に発展させた頃から、虹の都リエーヌには名だたる店が並び、年中活気に満ち溢れている。
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