冷酷な騎士団長が手放してくれません
馬の軽快な蹄の音が、通りを行く。


どんな帽子が良いでしょう、とひっきりなしにソフィアに話しかけてくるアーニャと違い、リアムは相変わらず寡黙だった。馬車の窓からじっと、物憂げに外を見つめている。






ソフィアは思い出す。


ソフィアとリアムが出会ったのは、ここリエーヌだった。


命を奪われかけたショックで、リアムはアンザム邸に来るまでのことを、ほとんど覚えていなかった。


僅かに記憶があるのが、十年前のあの暴動の最中、両親が何者かに襲われ亡くなったということらしい。


(おそらく、リアムはこの辺りで育ったのね)


リアムが記憶を取り戻さない限りはっきりとはしないが、きっとそうだと思う。


着ている服は粗末だったが、幼いながらにリアムは洗練されていて、都会育ちの香りがしたからだ。






リアムをリエーヌに連れて行くのは、気が進まなかった。リアムにとって、この場所には両親を殺された辛い思い出があるからだ。


だが騎士の中から護衛を募った際、リアムは真っ先に名乗り出た。


いつだってそうだ。騎士団長という立場でありながら、リアムは率先してソフィアの護衛を務めようとする。






ふいに、リアムがソフィアの方を見た。


ソフィアの視線に、気づいたのだろう。


ソフィアは、彼女の忠実な下僕に優しく語り掛ける。


「リアム、何を考えているの?」


辛い出来事を、思い出していなければいい。そう願いながら話しかけたのだが、リアムの返事は意外なものだった。


「はい。兵士の数が多い、と思っておりました」




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