冷酷な騎士団長が手放してくれません
葡萄畑の連なる道を超えると、カダール公国の城が見えてきた。


石造りの要塞城は、白亜のロイセン王国の城とは違い、物々しい雰囲気だ。


城の周りは堀で囲まれており、煉瓦造りのアーチ橋を渡ると、鉄製の門扉が一行を出迎えた。


城全体が醸し出す厳かな雰囲気に、ソフィアは緊張を覚える。だが、向かいのライアンは「すごいな~。超頑丈じゃん」と相変わらずの能天気っぷりなので、幾らか気分がほぐれた。







城内は、見掛けとは違って開放感に溢れていた。


建物全体が豪華な庭園をぐるりと取り囲むように建てられていて、清々しい空気に満ちている。


水汲みをしているビーナス象に、大理石造りの噴水、広大な温室。甘い花の香りに誘われ蝶が飛び交い、小鳥が高らかに鳴いていた。美しさに、ソフィアは思わず目を瞠る。





「こちらでございます」


庭園を眺めながら回廊を進み、突き当りの扉の前で、ソフィアとライアンを案内してくれた召使は足を止めた。


コンコンとドアをノックし、「殿下、アンザム辺境伯のご子息とご令嬢がお見えになりました」と召使が告げると、間もなくして銀のドアノブが動き、ニールが姿を表した。


「お待ちしておりました」


深々とお辞儀をしたニールは、顔を上げたあとでソフィアに向かって微笑んだ。


妖艶な眼差しに、ソフィアの胸がまた鼓動を鳴らす。


シルクのブラウスに、黒の細身のズボン。以前とは違い軽装だが、持ち前の気品が薄れることはなかった。ニールのスラリとした体躯は、どんな装いでも着こなしてしまうらしい。
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