冷酷な騎士団長が手放してくれません
「殿下。お招きに預かり、光栄です」


ソフィアは、ドレスを僅かに持ち上げ会釈する。


正面に向き直った時、ニールはまだ微笑を浮かべてソフィアを見ていた。居心地の悪さから、ソフィアは思わず視線を逸らす。


「僕は、ソフィアの兄のライアン・デルイース・アンザムと申します。本日は付き添いで参りました」


「先日はどうも。お越しいただき光栄です」


ニールとライアンが挨拶を交わし合っている間、ソフィアはおずおずと扉の奥に目をやった。


応接室らしき部屋は薄暗く、壁には天井まで伸びた書架にずらりと本が並んでいる。


奥には暖炉があり、上空には現カダール公爵と思しき人物の肖像画が飾られていた。隙のないアーモンド型の漆黒の瞳が、ニールによく似ている。


真ん中に設置された楕円形のロココ調のテーブルの周りには、既に数人が集まっている。いずれも男性貴族のようで、先ほどライアンが、男性ばかりの変わったサロンだと噂していたのをソフィアは思い出した。







本当に、私なんかが参加しても良いのかしら?


不安を感じているソフィアの横を、「うわ~。図書室並みの本の量ですね」と呑気な口調でライアンがすり抜けていく。


ものの数秒でゲストと打ち解け、談笑し始めるライアンを、我が兄ながら羨望の眼差しで見てしまうソフィア。





「どうした? 怖いのか?」


ふと耳もとで吐息とともに囁かれ、ソフィアは我に返る。


思った以上にニールの漆黒の瞳が近くにあって、ソフィアは慌てて目を伏せた。


「怖くなど、ありません……!」


「そうか。それなら、安心した。では、案内しよう」


ソフィアの隣に並んだニールが、彼女の腰に手を添え、奥へとエスコートを始める。


腰に置かれたニールの指から伝わる熱に、ソフィアはまた落ち着かない気持ちになるのだった。


< 38 / 191 >

この作品をシェア

pagetop