冷酷な騎士団長が手放してくれません
その文学サロンは、ソフィアが今までに参加したどのサロンとも雰囲気が違った。


通常のサロンであれば、サロンとは名ばかりの、女主人を称えるおべっか広場に他ならない。


美術にしろ文学にしろ建前だけで、本当は女主人の暇つぶしに過ぎないのだから、話はすぐに主題を逸れて下世話な方へと流れるのがパターンだ。


どこの令嬢が、誰に気があるだの。どこぞの男爵とどこぞの令嬢が、夜会の際にキスをしていただの。どうでも良い話ばかりで、ソフィアはいつもあくびをこらえるのに必死だった。





だがニールの文学サロンでは、思想家たちがこぞって政務に対する自分の考えを熱く語り、意見をぶつけ合っている。


どうやらロイセン公国とハイネル公国の関係について議論を巡らせているようで、深いことまでは理解できなかったが、ソフィアも興味を持って聞くことが出来た。








「退屈していないかい?」


ゲストたちの討論中、隣に座ったニールがこっそり耳打ちして来た。


すっかり話に引き込まれていたソフィアは、「いいえ、全然」と首を振る。


「こんなに面白いサロンは初めてですわ」


「そうか。それは良かった」


目を細めたニールは、ソフィアから視線を外そうとはしない。


ソフィアはまた落ち着かなくなって、気持ちをもとに戻すのに必死だった。
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