冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアが苦々しく語れば、リアムは何も答えずに腰から手を離した。


「終わりました」


「ありがとう、リアム」


振り返れば、着付けを終え、ひざまずき頭を垂れているリアムが視界に入る。癖がかった金色の髪が、湖畔の風に凪いでいた。


『まあ、なんて美しい人なの。この世の光を全て吸い込んだように、輝いているわ』いつだったか、どこかの令嬢が恍惚とした瞳でリアムを見つめながら囁きかけて来たのを、ソフィアは思い出す。







ふと、リアムが視線を上げた。美しい肌に、鋭いブルーの瞳。少しだけ開いた紅い唇には、甘美な果実のような色香を感じた。


視線を合わせたまま、リアムがうっすら微笑む。


「ソフィア様は、そのままでも充分お美しい」


「ありがとう、リアム」


ソフィアが、そっと手を伸ばす。白く滑らかな手の甲には、年月を経て薄くなった五センチ程度の傷痕があった。


リアムはその傷痕に、口づけをした。


服従の証。


リアムは、ソフィアに永遠の忠誠を誓っている。ソフィアも、リアム以外の人間には心を開かない。


この関係は、絶対だ。













――――私の、忠実な下僕。





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