冷酷な騎士団長が手放してくれません
熱弁が繰り広げられる中、ソフィアは軽い目まいを覚えた。


十七歳の汚れを知らない娘が耳にするには、内容が激し過ぎたからだ。その上初夏とあって、室内は蒸すように熱い。


恥ずかしさと熱気が混ざり合い、ソフィアの体からじんわりと汗が滲んでいく。



「大丈夫か?」


ソフィアの異変に気づいたのは、隣にいるニールだった。ソフィアは俯いたまま、かぶりを振った。


「ごめんなさい。ちょっと気分が優れないので、退席してもよろしいでしょうか?」


「……ああ。庭で、風に当たって来るといい」


ニールがねぎらいの言葉を言い切る前に、ソフィアは立ち上がり応接室をあとにしていた。







応接室を出るなり、中庭から吹き込む涼やかな風を感じ、ソフィアはホッと息を吐いた。


回廊を歩き、中腹にある階段から中庭へと降りる。噴水を中心に、庭には円状に花が植えられていた。


紫のラベンダーに赤いクロマチス、黄色のガーベラ。アーチ形のトンネルの向こうはバラ園になっていて、色とりどりのバラが咲き誇っている。






「お兄様ったら、何を考えているのかしら」


前々から抜けているところがあるとは思っていたが、今日のは露骨だった。妹の前であんなことを言い出すなんて、どうかしている。


もっともああいう赤裸々な話は男同士の間では好まれるらしいから、ライアンの人脈拡大には効果があったかもしれない。それが狙いならお見事としか言いようがないが、ライアンのはただの天然気質である。


「お兄様のこと、やっぱり嫌いかも……」


ぼそりと呟いたところで、



「ソフィア」


背後から、聞き覚えのある声が聴こえた。
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