冷酷な騎士団長が手放してくれません
振り返れば、いつの間にかニールが立っていた。


「殿下……? サロンは、大丈夫ですの?」


「俺がいなくても白熱してるから、こっそり抜け出してきた」


ソフィアが驚けば、ニールは微笑を携えながら隣へと歩んで来た。ソフィアの顔を間近で見据え、ニールが頭を下げる。


「先ほどは、気分を害して悪かった」


「そんな。悪いのは兄ですわ。殿下が、謝ることではございません」


「俺が安易に本など出したから、君があの挿絵を目にしてしまった。もっと、考えて行動するべきだったよ」






ソフィアは息を呑む。


そもそも、悪いのは兄でもなく、意気地なしのソフィアなのかもしれない。


男だらけのサロンに参加した以上、どんなことが起ころうと、覚悟を持って居座るべきだった。


それなのに自分よりも身分の高いこの男は、悪いのはライアンでもソフィアでもなく自分だと言い謝っている。


(きっとこの方なら、素敵な公爵様になられるわ)


権力を振りかざさず、常に人と対等であろうとする領主こそ優れた領主だと、ソフィアは父から聞いたことがある。






「殿下。お願いですから、頭をお上げください」


ソフィアが微笑めば、ニールも表情を崩す。


「初めて見たな」


「え……?」


「君の、本当の微笑みを。今、初めて俺に心を開いてくれたね」


動揺するソフィアの前へと、ニールは一歩進み出る。


「バラ園に、ベンチがあるんだ。ついでだから、一緒に座って少し話をしよう。そもそも今日のサロンは、君と話がしたいがために開いたようなものだからね」


口の端を上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべると、ニールはバラ園へと続くアーチ門へと先に歩み始めた。
< 43 / 191 >

この作品をシェア

pagetop