冷酷な騎士団長が手放してくれません
「『獅子王物語』のどこが一番好きなんだ?」


「はい。獅子王が婚約者アメリを救いに敵陣に乗り込むところと、最後の満月の夜の戦いにございます」


「そうか。君は、本当に戦いが好きなんだな」







バラ園の中ほどにあるベンチに腰掛けた二人は、青空の下、しばらくの間話に花を咲かせた。煉瓦の積み上げられた花壇には所狭しと白や黄色のバラが咲き乱れ、甘美な芳香を辺りに漂わせている。


「ところで、君の剣術の腕前はいかほどなんだい?」


「存じません。リアム以外と手合わせしたことがございませんので」


「そうか」


するとニールはおもむろに立ち上がり、落ちていた木の枝を二本手に取った。そして、一方をソフィアに差し出す。


「それでは、今ここで俺と手合わせをしよう。いかほどのものか、見てやる」






ソフィアは、目を瞬いた。



立ち上がりソフィアを見下ろしているニールは、相変わらず隙のない微笑を浮かべていて、何を考えているのか読めない。



今から、剣の手合わせ? それも、この木の枝で? 文学サロンは、もう戻らなくていいのかしら?


しかし、王子であるニールの誘いを断ることは出来ない。


「かしこまりました」


ソフィアは枝を手に取り立ち上がると、「やっ」とニールに向かって振り上げた。








「ははっ。なかなかやるな」


体を逸らしつつ、ニールが笑う。


「騎士仕込みなだけあって、筋がいいぞ」


「光栄にございます」


剣代わりの木の枝葉を交えながら、二人は幾度も笑顔を見せ合った。
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