冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ハア、ハア……」


時間を忘れて二人で枝をぶつけ合い、気づけばソフィアはクタクタになっていた。


アーニャがポンパドールに結い上げてくれた髪は乱れ、ドレスも皺だらけ。重いドレス姿で目いっぱい体を動かしたものだから、いつも以上に汗を掻いている。


「すまない。つい楽しくて、夢中になってしまった」


ソフィアの様子に気づいたニールが、ようやく枝葉を地面に置いて、ベンチに座るように促した。


「こんな姿で、サロンには戻れないな。かしてみろ」


ソフィアの頭上に手を伸ばし、ニールが乱れた髪を直そうとしている。ソフィアは、慌てて身を剥がそうとした。


「殿下、大丈夫です。自分でやりますから……!」


「なに、こう見えても手先は器用なんだ」


言葉通り、ニールは繊細な指の動きで髪のほつれをほどき、あっという間に結い上げた髪を元通りにしてしまった。


「すごいわ……」


「惚れたか?」


瞳を細め、冗談めかして笑うニール。









「汗もすごいな」


ニールは、自分の懐からハンカチを取り出すとソフィアの額に当てた。


「殿下、それはさすがに……」


「いいから、じっとしてろ」


額を行き来したハンカチが、ソフィアの耳の後ろを滑る。ソフィアの顎先を持ち上げると、ニールは細い首筋の汗を丹念に拭い始めた。


必要以上に肌を行き来する、柔らかい布の感触。


視線を下ろすと、ソフィアの首筋に視線を這わせているニールの艶めいた眼差しが目に入った。


「真珠のように、滑らかな肌だ」
< 45 / 191 >

この作品をシェア

pagetop