冷酷な騎士団長が手放してくれません
「……もう、大丈夫です。自分でいたします」


早口にまくしたて、半ば奪い取るように、ソフィアはニールの手からハンカチを受け取った。


そして早急に肌に浮かんだ汗を拭うと、「洗ってお返ししますので」と顔を伏せ立ち上がろうとした。


だが、寸手のところで腕を引き寄せられる。


バランスを崩したソフィアは、ニールの膝の上に座り込んでしまった。







「近々、アンザム辺境伯に、正式に君との婚約を申し込もうと思っている」







いつもより低めの声には、真摯な響きが込められていた。


ソフィアを見下ろす、深い眼差し。


唇を引き結んだまま、ソフィアはニールの視線から逃げられない。


恐怖と戸惑いで、息をするのも精一杯だった。







「……なぜですか? なぜ、私なのですか?」


ようやく出せたのは、細く頼りない声。だが、それは彼女の心からの疑問だった。


出会うなり野蛮だと罵られ、ダンスの時には転んで逃げ出し、女だてらに剣術の真似事する自分の、何をいったいこの人は気に入ったというのだろう?


自分に、ニールを惹きつけるような魅力はない。


ニールは、とんでもない見誤りをしている。
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