冷酷な騎士団長が手放してくれません
「そうだな。理由は二つある。一つ目は、そもそも君が俺の婚約者の第一候補だったからだ。辺境伯の娘である君と結婚すれば、ロイセン王国との交流もいっそう密になるからな。ロイセン王国の親交は、我が国にとって最重要事項に値する」
ニールが、僅かに口の端を上げた。
その微笑が思いがけないほどに優しくて、ソフィアは再び奇妙な心地になる。
「二つ目は、単純に、君をもっと知りたいと思ったからだ」
ソフィアの腕を握るニールの手に、力がこもった。
「君が、どんなことに興味があるのか。どんな話をしてくれるのか。俺の話を聞いた時、どんな顔をしてくれるのか。もっと、深く君のことを知りたい。そして、俺のことも知って欲しい」
ソフィアは、目を見開いた。
いつかの、リアムの言葉を思い出す。
――男は、そんな海のような女に、自分の全てを受け止めてもらいたいのです。
そこで、ニールはソフィアの腕をようやく解放した。
「良い返事を、期待しているぞ」
ニールの膝から離れても、胸の鼓動は鳴り止まない。
熱い視線に耐えられず、ソフィアは俯くことしか出来なかった。