冷酷な騎士団長が手放してくれません
――――ソフィアがリアムと出会ったのは、今から十年前のことだった。
その日、七歳のソフィアは従者とともにロイセン王国の王都リエーヌに来ていた。
「アーニャ、見て。素敵な帽子だわ」
「アーニャ、なんて美しい建物なの」
リエーヌ一栄えていると言われる通りを、馬車の中から眺めてはうっとりと感想を溢すソフィア。仕立て屋にガラス屋、帽子屋に靴屋。辺りには、色とりどりの店が立ち並ぶ。
真っ直ぐに伸びた煉瓦造りの通りの向こうには、幾棟もの三角屋根の塔の連なる、壮大な城がそびえていた。
「そりゃあロイセン王国髄一の都ですから。でも、ここは人ばかりで落ち着かないです。私は、緑豊かなリルべの方が好きですわ」
まだ初々しい娘だったアーニャは、人混みに怯えたような顔をしていた。
「見て、アーニャ。あの人、大きな玉の上に乗っているわ」
通りの中心に位置する広場では、ステンドグラスが神々しい教会の前で、大道芸人がショーをやっていた。幼いソフィアは、大道芸人を見るのは初めてだった。
「ねえ、アーニャ。馬車を降りて、もっと近くでショーを見たいわ」
ソフィアにキラキラとした瞳で見つめられると、アーニャもあらがえない。
「少しだけですよ。ただし、私からは絶対に離れないでください」
「はーい」
ワクワクとした足取りで、ソフィアは馬車を離れる。アーニャは従者に馬車を広場の隅に止めるよう指示すると、ソフィアを連れて大道芸人を取り囲む人混みに近づいた。
ソフィアが、大道芸人の手品に見入っている時だった。
―――バンッ、バンッ、バンッ!!!
突如、耳をつんざくような爆発音があちこちで弾け、人々を動揺させた。見れば、広場の数か所から炎と煙が上がっている。何者かが、爆薬を投げたようだった。
続いて、幾度も至るところから爆発音が響いた。爆風に人々が煽られ、血を流しながら地面に倒れ込む。
悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げる人々。あっという間に広場は混乱の渦に巻き込まれ、ソフィアはアーニャと離れ離れになってしまう。