冷酷な騎士団長が手放してくれません
ある日のことだった。


アンザム邸で開かれた夜会の際、来客のダイヤモンドのネックレスが紛失した。


それがリアムの服の中から見つかり、リアムは厳重に処罰されることになる。


ソフィアは、当時の騎士団長に必死に反論した。


「リアムは、そんなことしないわ……!」


「ですがお嬢様、紛れもない事実なのでございます」


結果としてリアムは七日間地下牢に監禁され、毎日鞭を浴びせられることになる。


当然、ソフィアに近づくことも禁止となった。







「リアム、リアム……!」


リアムに会いたくて、ソフィアは夜中に部屋をこっそり抜け出し地下牢に向かった。


鞭を浴びせられたリアムは背中に傷を負い、冷たい床にぐったりと横たわっていた。


その姿を見て、鉄格子を掴みながら、ソフィアはこらえ切れず泣き出してしまう。


「ソフィア様、このようなところに来てはなりません」


放ったらかしにされている背中の傷が痛むはずなのに、ソフィアに気づくと、リアムは笑顔を見せるのだった。


「リアム、どうして? どうしてリアムが、こんな目に遭うの?」


「それは、悪いことをしたからでございます」


「でも、私には分かるの。あなたは、宝石なんか盗んでない。そうでしょ?」


ソフィアの問いには答えず、リアムはただソフィアを見つめるのだった。


それ以上リアムは何も話してくれなくなったので、いたたまれなくなったソフィアは、鉄格子の隙間から手を差し出す。二人の絆の証である、傷痕のある右手だ。


リアムは、優しくその手を握ってくれた。


リアムの手は温かくて、ソフィアの胸に哀しいほどの安らぎをくれた。


そしてその晩、二人は鉄格子越しに手を繋ぎ合って眠った。
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