冷酷な騎士団長が手放してくれません
キスの手ほどき


初夏を過ぎ、緑に溢れたリルべに、いよいよ本格的な夏が来た。


日差しに構わず外に出たがるソフィアに、アーニャはいつも愚痴をこぼしていた。


「ソフィア様、日焼けは美容の天敵です。夏の間は、外出をお控えしてください。それか、せめて万全に対策をされてからお出になられてください」


アーニャがうるさいので、ソフィアはしぶしぶ日傘を手にして出かけるようにしている。


リルべの夏は、美しい。


青々と生い茂った広野は青空に映え、蝶やトンボが優雅に飛び交う。太陽の光を受けて黄金色に光る湖には、真っ白な水連が花開き水面を漂っている。


世界がこんなに輝いているのに、ソフィアは邸の中でじっとしていることなど出来なかった。


幼い頃から毎年そうしているように、時にはリアムを誘い夏の日差しの中を一緒に歩いた。







そんなソフィアに、母のマリアはしびれを切らしていた。


ニール王子から婚約の申し入れがあって数日が経つが、ソフィアがいまだ返事をしようとしないからだ。


ソフィアにしろ、このままでは良くないのは知っている。


カダール公国の王子を待たすことが失礼なことも、これ以上の良縁などもうないであろうことも分かっている。


ただどうしても、気の迷いからはっきりとは決断が下せずにいた。


だが、婚約の返事を出し渋って一週間目のある夕方、事態は急展開を迎える。




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