冷酷な騎士団長が手放してくれません
政務を終え王宮から帰宅したばかりの父アンザム辺境伯が、突然倒れたのだ。


馬車を降り、玄関ホールに入った直後の出来事だった。


アンザム邸は、一時大パニックになった。


すぐにかかりつけの医者が呼ばれ事なきを得たものの、ソフィアはアーニャから衝撃の真実を伝えられることとなる。







「ご主人様はしばらく前から、病を患っておられたのです」


「病……? 何のご病気なの?」


「肺の病だと言われておりました。薬で容態を落ち着かせていたものの、お医者様からは持って十年と言われているそうです」


「十年……」


ソフィアは、奈落の底に突き落とされたかのような心地になる。


息が苦しくなり、立っているのもやっとだった。


(あの優しいお父様が、あと十年しか生きられないというの……?)







「このことは、薬の受け取りをしていた使用人しか知らなかったことです。ご主人様に、ライアン様とソフィア様だけには、絶対に言うなと言われておりましたので……。恐らく、奥様もご存じなかったのではないでしょうか。ご主人様はあの通り、思慮深い方ですので……」


ソフィアはキシキシと痛む胸を抑え、呆然と椅子に座り込んだ。


目の前が、真っ白だ。父の穏やかな笑顔と、頭をポンと撫でるあたたかな手の感触を、幾度も思い出してしまう。


「きっと、度重なるご政務で、心身疲れ果ててしまわれたのでしょう」


アーニャは、鼻を啜ると目に浮かんだ涙を拭った。


ショックのあまり、ソフィアは返す言葉がない。


(いいえ。きっと、政務のせいだけではない。私のせいよ……)


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