冷酷な騎士団長が手放してくれません
辺境であるリルべと、隣国カダール公国には切っても切れない縁がある。
それなのに、失礼に値することを承知で、ソフィアはニール王子にいまだ婚約の申し入れの返事をしていない。
ソフィアの前ではそんな素振りは見せなかったが、父であるアンザム卿の心労は、計り知れないものだっただろう。
「ご主人様はソフィア様を自由にしてくださっていますが、本当は誰よりもソフィア様の結婚を心待ちにしておられるのです」
追い打ちをかけるように、アーニャが言った。
ソフィアは、震える口もとを押さえた。
自分がどれほど身勝手で軽率な行動をとっていたのか、思い知ったからだ。
男が怖い。
そんな浅はかな理由で、これ以上ない良縁から目を背けていた自分。
貴族の娘にとって、顔も知らない相手との政略結婚は当たり前のことだ。
多くの令嬢が生家を守るため、自分の気持ちに蓋をし、好きでもない男のところに嫁いでいく。
そんな世界に身を置きながら、自分はなんとあさましい考えを持っていたのか。
結果として、大好きなお父様に苦しい想いをさせてしまった。
椅子に座ったまま、ソフィアはハラハラと涙を流した。
(お父様を苦しませたままお別れだなんて、絶対に嫌だわ)
「ソフィア様……」
神妙な顔をしたアーニャが、泣いているソフィアの肩をそっと撫でてくれた。
「決めたわ、アーニャ。私、ニール王子の婚約をお受けする」
ソフィアの凛とした声が、静かな空間に落ちる。
ピンと背筋を伸ばし宙を見据えるソフィアに、もう迷いはなかった。
それなのに、失礼に値することを承知で、ソフィアはニール王子にいまだ婚約の申し入れの返事をしていない。
ソフィアの前ではそんな素振りは見せなかったが、父であるアンザム卿の心労は、計り知れないものだっただろう。
「ご主人様はソフィア様を自由にしてくださっていますが、本当は誰よりもソフィア様の結婚を心待ちにしておられるのです」
追い打ちをかけるように、アーニャが言った。
ソフィアは、震える口もとを押さえた。
自分がどれほど身勝手で軽率な行動をとっていたのか、思い知ったからだ。
男が怖い。
そんな浅はかな理由で、これ以上ない良縁から目を背けていた自分。
貴族の娘にとって、顔も知らない相手との政略結婚は当たり前のことだ。
多くの令嬢が生家を守るため、自分の気持ちに蓋をし、好きでもない男のところに嫁いでいく。
そんな世界に身を置きながら、自分はなんとあさましい考えを持っていたのか。
結果として、大好きなお父様に苦しい想いをさせてしまった。
椅子に座ったまま、ソフィアはハラハラと涙を流した。
(お父様を苦しませたままお別れだなんて、絶対に嫌だわ)
「ソフィア様……」
神妙な顔をしたアーニャが、泣いているソフィアの肩をそっと撫でてくれた。
「決めたわ、アーニャ。私、ニール王子の婚約をお受けする」
ソフィアの凛とした声が、静かな空間に落ちる。
ピンと背筋を伸ばし宙を見据えるソフィアに、もう迷いはなかった。