冷酷な騎士団長が手放してくれません
虚を突かれたソフィアは、一瞬言葉を詰まらせる。


「まさか。リアムとは、身分が違いすぎますわ」


「分かっておる。だがお前とリアムの間には、人の入り込めない深い絆を感じるんだ」


「その通りではございますが、それは愛情ではございません」


「愛情ではないのか……?」


「違います。リアムは、私の忠実な下僕以外の何者でもありません」






言葉が、スラスラと口を突いて出て行く。


少しの迷いも感じないソフィアの言動に、アンザム卿は押し黙る。


「もう、決心したのだな」


「はい」


「そうか。それなら、もう何も言うまい」


話し疲れたのか、アンザム卿はそこで咳き込んだ。


気持ち小さく感じる父の背中を撫でながら、ソフィアは心の中で再び決意を固める。


(お父様。私はお父様が安心して余生を過ごせるように、精一杯の努力をいたします。そして、必ず良き公爵夫人となることを誓います)


あれほど婚約に迷っていたのに、今は嘘のように気持ちが纏まっている。


まるであの時のようだわ、とソフィアは思う。


十年前、薄暗い地下通路で息も絶え絶えに倒れている少年を目にした時、命に代えても守らなくては、と一瞬にして決意した。


今の気持ちは、あの時のように芯が通っていて、揺るぎないものだった。
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