冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアの婚約成立のニュースは、当主の病で沈んでいたアンザム邸を、瞬く間に明るくさせた。
輿入れに際して用意する道具や衣類などを用意するのに、母のマリアは早くも意気込んでいる。
ソフィアの毎日のお稽古ごとには、公爵夫人になるための講釈が新たに加わった。
心を決めたソフィアは、今までお稽古事をことごとく嫌って逃げ出していたのが嘘のように、真剣に打ち込むようになった。
「おお、ソフィア。婚約が決まったんだってね、おめでとう。さすが僕の妹だ」
ある時、兄のライアンと彼の自室の前で鉢合わせた際、嬉しそうに言われた。
「そうだ、僕からプレゼントがあるんだった。ちょっとここで待ってて」
そう言ってライアンは一端自室に引き返すと、本を片手に戻って来た。
「はい、コレ」
いつも以上に、やたらとニコニコしているライアン。
「なんですの? この本は」
「『欲望の荒野』だよ」
ぱちくりと目を瞬いたソフィアの脳裏に、文学サロンで目にした挿絵が蘇る。
「……こんな本、いただけません」
汚物を手にしたかのように本を突き返すソフィアを見て、ライアンがやれやれとため息を吐いた。
「いや、お前は読んだ方がいい」
「だから、読まなくても大丈夫ですから……!」
呑気なんだか天然気質なんだか、ライアンも困ったものである。ライアンにもこの度縁談の話が持ち上がっているという噂を耳にしたが、聖母のごとく寛容な女性でなければ、彼には寄り添えないだろう。
しつこく本を突き返そうとするソフィアに、ライアンは何故か軽蔑の眼差しを向けてくる。
「じゃあお前、分かるのか?」
「分かるって……なんのことですか?」
「初夜に、何をどうすればいいか」
「しょ、や……?」
ソフィアの陶磁器のように白い顔が、瞬発的にボンと赤らんだ。
輿入れに際して用意する道具や衣類などを用意するのに、母のマリアは早くも意気込んでいる。
ソフィアの毎日のお稽古ごとには、公爵夫人になるための講釈が新たに加わった。
心を決めたソフィアは、今までお稽古事をことごとく嫌って逃げ出していたのが嘘のように、真剣に打ち込むようになった。
「おお、ソフィア。婚約が決まったんだってね、おめでとう。さすが僕の妹だ」
ある時、兄のライアンと彼の自室の前で鉢合わせた際、嬉しそうに言われた。
「そうだ、僕からプレゼントがあるんだった。ちょっとここで待ってて」
そう言ってライアンは一端自室に引き返すと、本を片手に戻って来た。
「はい、コレ」
いつも以上に、やたらとニコニコしているライアン。
「なんですの? この本は」
「『欲望の荒野』だよ」
ぱちくりと目を瞬いたソフィアの脳裏に、文学サロンで目にした挿絵が蘇る。
「……こんな本、いただけません」
汚物を手にしたかのように本を突き返すソフィアを見て、ライアンがやれやれとため息を吐いた。
「いや、お前は読んだ方がいい」
「だから、読まなくても大丈夫ですから……!」
呑気なんだか天然気質なんだか、ライアンも困ったものである。ライアンにもこの度縁談の話が持ち上がっているという噂を耳にしたが、聖母のごとく寛容な女性でなければ、彼には寄り添えないだろう。
しつこく本を突き返そうとするソフィアに、ライアンは何故か軽蔑の眼差しを向けてくる。
「じゃあお前、分かるのか?」
「分かるって……なんのことですか?」
「初夜に、何をどうすればいいか」
「しょ、や……?」
ソフィアの陶磁器のように白い顔が、瞬発的にボンと赤らんだ。