冷酷な騎士団長が手放してくれません
「大丈夫?」


ソフィアが問えば、少年は微かに目を開けた。深海を彷彿とさせる、深いブルーの瞳だった。ぐったりと横たわる姿に、ソフィアは先月亡くなった飼い犬のレイを思い出した。


シェパードのレイは、とても賢い犬だった。赤ちゃんの頃からソフィアの側にいて、寄り添ってくれた。ソフィアはレイを助けたかったが、重い病に侵され、もうどうすることも出来なかった。


あの時の悔しさが、小さな胸に蘇る。もう、絶対にあんな想いをするのは嫌だ。


「心配しないで、大丈夫よ。私が、絶対にあなたを助けてあげる」





幼い少女の堂々たる物言いに、少年はやや面食らったようだった。けれども次の瞬間、ソフィアの背後に視線を移すと、怯えたように顔をひきつらせる。


少年の視線につられるようにして振り返ったソフィアは、突如現れた鉄仮面を被った男が、少年に向かって剣を振り上げるのを見つける。


咄嗟に、ソフィアは少年の前に立ちふさがった。








――――ザシュッ!!!



「……いたいっ!」







右手の甲に、焼けつくような痛みが走った。軌道を外れた男の剣の先が、ソフィアの小さな手を切り裂いたのだ。


ドクドクと流れ出た血がソフィアの腕を伝わり、地面に転がる少年の頬に滴り落ちる。


少年は青い目を見開いて、一部始終を見つめていた。




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