冷酷な騎士団長が手放してくれません
懇願するように、リアムを見つめる。


ソフィアの眼差しを受けて、リアムは微かに表情を崩した。


伸びて来たリアムの指先が、ソフィアの後れ毛を耳に掛ける。


そして、ゆっくりと顔を近づけて来た。





リアムの陰で、ソフィアの視界が狭まる。


風のそよぐ音が、耳を支配した。


柔らかい感触が、額に落ちる。


すぐに離れたそれは、今度はこめかみに落ちて来た。






「怖いですか?」


耳もとで、リアムが囁きかける。


「いいえ、怖くないわ」


そう答えると、ソフィアは目を閉じた。






世界が、真っ暗になった。


感じるのは、彼女に忠実な下僕のあたたかな感触だけ。


耳もとを離れたリアムの唇が、正面に移動する気配がした。


唇と唇が触れ合う寸前のところで、


「ソフィア様……」


聴こえるか聴こえないかの声量で、リアムが囁く。


もの悲しい声音が、ソフィアの体の奥にジンと響いた。


直後、ソフィアの唇にリアムの熱が触れる。
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