冷酷な騎士団長が手放してくれません
カダール城に来て、十日が過ぎた頃。


いつものように、ティールームではサロンが行われていた。


総勢十名の令嬢や貴婦人が白亜の円形テーブルに腰かけ、タルトやマフィンなどの茶菓子とともにお喋りに興じていた。


壁一面にアーチ形のガラス扉が連なるティールームは日が燦々と降り注ぎ、中庭に生い茂る木々が、テーブルに揺れ動くシルエットを映し出していた。


途中で、来客のあったマルガリータ夫人が席を外す。すると、待ってましたと言わんばかりにリンデル嬢が話を始めた。






「そう言えば、殿下は外交のためずっと外泊されているらしいですわね」


「まあ、そうなの? あの外出嫌いの殿下が、そんなにも長くお出になるなんて珍しいですわね。帰りたくない理由でもあるのかしら」


「どれくらい外泊されているの?」


「ソフィア様がこの城に来られた直後でしたから、ちょうど一週間くらいですわ」


リンデル嬢の声高な反応に、周りの貴婦人たちがざわつき出す。


一番端の席に座り、黙ってことの成り行きを見守っていたソフィアは、嫌な予感しかしない。






「この度のご婚約は、いわば外交策の一環。実のところ、殿下は乗り気ではないのかも知れませんわ。なかなかご結婚をなさろうとしなかったのも、殿下が自由恋愛主義を尊重されているからと伺っていましたし」


ティーカップを片手にザワザワと囁き合う婦人たちが、ソフィアに気の毒そうな視線を投げかける。


「それで、婚約者であるソフィア様から逃げられているのね」


「結婚したら、すぐにお妾でも見繕うつもりなのでしょう」


「もしかすると、辺境伯令嬢の地位を利用して、ソフィア様がしつこく言い寄られたのでは?」


ヒソヒソと囁かれる根も葉もない噂話が、容赦なくソフィアの耳に飛び込んでくる。


胸に蟠りを抱えながらも、ソフィアは一人黙ってティーカップに口を添えていた。



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