冷酷な騎士団長が手放してくれません
ロイセン王国とハイネル公国の関係緊迫は、ロイセン王国と密な関係にあるカダール公国にとっても他人事ではない。
度重なる会議のためしばらくはロイセン王国の王都に滞在すると、ニールは出発前ソフィアに言い残して行った。
ロイセン王国から距離のあるカダール公国は平和で、隣国が戦争に突入しかけていることなど、貴婦人たちは知る由もないらしい。
だがリンデル嬢の目の敵にされている以上、何を言っても非難の矛先は自分に向くだろうと判断し、ソフィアは無言を決め込んだ。
すると、その態度すら気に入らなかったのか、リンデル嬢は優雅に扇子を仰ぎながらソフィアに非難を浴びせる。
「ソフィア様は、随分静かな方なのですね。そんなご様子でしたら、いつまでたっても殿下のご寵愛はいただけなくてよ? 自由主義の殿下は、きっとユニークで一緒にいて楽しいと思える女性がお好きでしょうから。殿下を喜ばせるためにも、少しは努力なさったら?」
リンデル嬢のいびりに賛同するように、クスクスという笑い声がさざ波のように湧いた。
ソフィアはカップをソーサーに置くと、リンデル嬢を一瞥し物静かに語り出す。
「昔、犬を飼っていましたの。レイといって、とても賢いシェパードでしたわ」
ソフィアの脈絡のない返しに、リンデル嬢が眉根を寄せた。構わず、ソフィアは話し続ける。
「時々我が家に来られる伯爵夫人も、犬を飼われていましたの。マロンという名前の、白くてかわいらしい犬でした。とてもよく吠える犬で、レイを見ると唸り声を上げ、今にも飛びつこうとするのです。一方のレイは、吠えもせずに耳を垂れ、じっとマロンを見ているだけ。幼い私は、レイがマロンを怖がっているのかと思っておりました」
部屋中の婦人たちの視線が、ソフィアに注がれている。
「ある時、マロンの飼い主である伯爵夫人が、あやまって手綱を離してしまいましたの。私はレイが噛みつかれると思って、怯えましたわ。ですがマロンはレイから距離をとり、今までの威勢の良い唸りが嘘のように震え出したのです。その時、私は気づいたのです。マロンはレイに敵わぬことを知りながらも、ただ虚勢を張って、ギャンギャン喚いていただけだということに」
度重なる会議のためしばらくはロイセン王国の王都に滞在すると、ニールは出発前ソフィアに言い残して行った。
ロイセン王国から距離のあるカダール公国は平和で、隣国が戦争に突入しかけていることなど、貴婦人たちは知る由もないらしい。
だがリンデル嬢の目の敵にされている以上、何を言っても非難の矛先は自分に向くだろうと判断し、ソフィアは無言を決め込んだ。
すると、その態度すら気に入らなかったのか、リンデル嬢は優雅に扇子を仰ぎながらソフィアに非難を浴びせる。
「ソフィア様は、随分静かな方なのですね。そんなご様子でしたら、いつまでたっても殿下のご寵愛はいただけなくてよ? 自由主義の殿下は、きっとユニークで一緒にいて楽しいと思える女性がお好きでしょうから。殿下を喜ばせるためにも、少しは努力なさったら?」
リンデル嬢のいびりに賛同するように、クスクスという笑い声がさざ波のように湧いた。
ソフィアはカップをソーサーに置くと、リンデル嬢を一瞥し物静かに語り出す。
「昔、犬を飼っていましたの。レイといって、とても賢いシェパードでしたわ」
ソフィアの脈絡のない返しに、リンデル嬢が眉根を寄せた。構わず、ソフィアは話し続ける。
「時々我が家に来られる伯爵夫人も、犬を飼われていましたの。マロンという名前の、白くてかわいらしい犬でした。とてもよく吠える犬で、レイを見ると唸り声を上げ、今にも飛びつこうとするのです。一方のレイは、吠えもせずに耳を垂れ、じっとマロンを見ているだけ。幼い私は、レイがマロンを怖がっているのかと思っておりました」
部屋中の婦人たちの視線が、ソフィアに注がれている。
「ある時、マロンの飼い主である伯爵夫人が、あやまって手綱を離してしまいましたの。私はレイが噛みつかれると思って、怯えましたわ。ですがマロンはレイから距離をとり、今までの威勢の良い唸りが嘘のように震え出したのです。その時、私は気づいたのです。マロンはレイに敵わぬことを知りながらも、ただ虚勢を張って、ギャンギャン喚いていただけだということに」