冷酷な騎士団長が手放してくれません
リンデル嬢のこめかみがヒクヒクと痙攣しているのが、遠目からでも分かった。ソフィアが、何を言わんとしているのか気づいたのだろう。


「ああいうのを、『負け犬の遠吠え』と言うのですってね。兄に教えて貰いましたわ。兄は、人間も同じようなことをするのだと言っておりました」


クスクスという笑い声が、再び部屋中を行き交った。先ほどとは、笑いの矛先が違う。







「大人しそうに見えて、ソフィア様もなかなか言いますわね」


「ユニークな言い回しですわ。殿下も、ソフィア様のああいうところがお気に召したのかもしれませんわね」


「ご覧になって。リンデル様の、あの悔しそうなお顔」







「随分お待たせしてしまって、ごめんなさい。ただ今戻りましたわ」


ちょうどそこでマルガリータ公爵夫人が部屋に戻り、何も知らない無垢な笑顔で緊迫した部屋の空気を弾き飛ばしてくれた。


「奥様。奥様のお好きなマカロンが、そろそろ焼き上がる頃だと思います。持って来るようにお願いして来ますわ」


「ソフィア、ありがとう。気が利くのね」


席を立ち、颯爽と入り口に向かうソフィア。


途中で、リンデル嬢がものすごい顔つきで歯を食いしばっている様子が視界に入ったが、ソフィアは見て見ないフリを決め込んだ。
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