冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ソフィア、入るぞ」


それは、ニールの声だった。


慌てたソフィアがバルコニーから部屋に戻ろうとするよりも早く、ドアが開く。


正装である濃紺の軍服を着たニールが、後ろ手にドアを閉めバルコニーにいるソフィアに視線を向けた。



「そのままそこにいろ。俺が、そちらまで行く」


ニールの黒のロングブーツが、大理石の床をコツコツと歩む。そして、バルコニーに佇むソフィアの隣で立ち止まった。






「殿下、いつお戻りに……?」


「今、馬車が着いたばかりだ」


漆黒の瞳が、ソフィアを上から下まで眺め回した。たじろいだソフィアは、俯き白のネグリジェ姿の自分の体を両手で抱きしめる。


「申し訳ございません、殿下。私、こんなはしたない格好で……」


「かまわない。むしろ、布が薄い方が俺は嬉しいけどな」


悪戯に弧を描く、ニールの口もと。ソフィアの胸の奥から、みるみる羞恥心が込み上げる。







「明日お戻りになる予定とお伺いしておりましたが」


「所用を一つ潰して、早めに切り上げた」


「そうだったのですね。お疲れでしたら、明日のご政務に関わります。早くお休みになられた方が良いのでは」


「つれないな。早く君に会いたくて、夜に馬車を走らせたんだ。もう少し、ここにいさせてくれ」


優しく細められるニールの瞳。頬を紅潮させたソフィアは、俯いた。







「どうだ? 城での生活には慣れたか?」


「はい。奥様をはじめ、とても良くしてもらっております」


「勝手が違うから、苦労することもあるだろう」


「それを承知で参りましたから、平気でございます」

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