冷酷な騎士団長が手放してくれません
ニールが、フッと笑った。


「君は強いな。やはり俺の見込んだ通りだ。儚さの中に、強さを秘めている」


そんな、とソフィアは口ごもる。


「買い被りでございます」


実際は、平気などではない。リンデル嬢のいびりには嫌な思いをしているし、今しがたまでやり切れない寂しさに襲われていた。


だが、ニールには本音がさらけ出せない。






欄干に両手を掛けたニールが、夜空を見上げる。そして、「今宵は満月か」と呟いた。


「君に初めて会ったあの夜会の夜も、満月だったな。父上が結婚をせかすのに業を煮やして夜会に参加したはいいものの、乗り気になれなかった俺はあの日バルコニーに逃げ込んだ」


昔を懐かしむように、ニールが目を細める。


ソフィアも、ニールと初めて出会ったあの晩のことを思い出していた。


バルコニーから突如現れた男を、誰が王子と思うだろう。ニールがあんなところにいたのは、そんな理由があったらしい。


「だけど、そこで思いもよらない出会いがあった」


欄干に頬杖をつき、ニールが挑発的な眼差しをこちらに向ける。


「俺と同じようにつまらなそうな顔をしてバルコニーに出て来た君は、『獅子王物語』の一節を口にした」







伸びて来た指先が、ソフィアの髪に触れた。ソフィアは、ビクッと身を竦ます。


「とても、野蛮で美しい人だと思った」


「殿下……」


「この女のことなら、愛せると思ったんだ」


ニールの真っ直ぐな視線に耐えれなくなったソフィアは、恥じらうように瞼を伏せる。


髪を離れた指先が、首に触れる。


ドクンドクンと、胸が鼓動を早めた。


ソフィアの肌の感触を楽しむように、ニールの指先が首筋を流れていく。


同時にニールが体を近づけて来たのに気づいたソフィアは、ぎゅっと目を閉じた。柑橘系のオーデコロンが、鼻先をくすぐる。









怖い。でも、きっと大丈夫。


リアムと練習したのだから、もう怖くはないはずだわ――。
< 82 / 191 >

この作品をシェア

pagetop