冷酷な騎士団長が手放してくれません
ソフィアが驚き目を瞬くと、ニールはソフィアを真正面から見据え、妖艶な笑みを浮かべた。吹き荒れた夜風に、中庭の木々がザワザワと音を響かせる。


「早く君に触れたいが、初夜まで我慢することにしよう。母上の隣の部屋では、どうにも分が悪い」


色っぽい声音が、ぞわぞわとソフィアの鼓膜をくすぐる。


頬を紅潮させるソフィアを見て、ニールは悪戯っぽく目を細めた。







「それでは、名残惜しいが部屋に戻るとしよう」


「はい……」


バルコニーのアーチ扉を抜け、部屋の入口へと向かうニールのあとを、ソフィアは複雑な気持ちのまま追いかける。


「そうだ」


ドアの前でいったん足を止めると、思い出したようにニールがソフィアを振り返った。


「来月、夜会を開くことにした。この国の要人に、君を披露目たくてな。母上と一緒に、夜会用のドレスを見繕いに行くといい」


「はい、かしこまりました」


「それから、君が喜ぶ特別な客人を招待しておいたから、楽しみにしておいてくれ」


ソフィアを見据え、少年じみた笑みを浮かべるニール。


はい、とソフィアは返事をしたものの、思い当たる人物がいない。


だが、今は気持ちがいっぱいでそれどころではなかった。





「では、おやすみ」


「おやすみなさいませ」


穏やかな視線を残し、ニールはドアの向こうに消えて行った。


ニールのブーツが廊下の向こうへと遠ざかる音を、ソフィアはドアの前に立ち尽くしたまま聞いていた。






罪悪感が胸の奥底に渦巻いて、一向に消える気配がない。


行き場のない焦りに、息苦しさすら覚えていた。


(どうして……?)


ニールは、優れた人物だ。人間性も秀でているし、品があり、知性にも富んでいる。その上真っ向からソフィアと向き合い、愛そうとしてくれている。


それなのに、纏わりつくようなこの不安はどこから来るのだろう?


力無くしたソフィアは、ズルズルとその場に座り込んだ。


その時だった。

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