冷酷な騎士団長が手放してくれません
騎士の嫉妬


人を疑い出したらキリがない。


確かそう言っていたのは、父であるアンザム卿だった。


いいか、ソフィア。人を見抜く力を持つんだ。


よくよく観察していれば、その人が善人か悪人か、そのうち一目で分かるようになる。


そして、無駄に人を疑わなくて済むようになる。


人を信じ、愛すること。その力は、君を幸せにするだろう。






「ごきげんよう、ソフィア様」


「ソフィア様、今日もお綺麗ですわね」


「ソフィア様、昼食はお済みになられましたか?」





カダール城の回廊には、今日も多くの人が行き交う。


古くから仕える老年の侍女に、まだ年端もいかない少女の侍女。壮大な庭園を手入れする庭師に、調理服から甘い砂糖の香りを漂わす料理人。高慢な顔つきの副官に、愛想笑いを絶やさない公爵の近従。そして、サロンに出入りする貴婦人たち。


すれ違う人たちに笑顔で挨拶を返しながらも、ソフィアの心の内は落ち着かなかった。


――『故郷に帰れ、この売女』


氷の刃のように熱のない文面が、頭から離れない。


疑いの目を持ってみれば、全ての人間を怪しく感じてしまう。自分を死ぬほど忌み嫌っているのかもしれないと、呼吸をするのもままならなくなる。


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