冷酷な騎士団長が手放してくれません
思わず声を上げようとしたソフィアを、口もとに人差し指を当てて制すリアム。


ソフィアは急いでバルコニーをあとにすると、音をたてないように廊下に歩み出た。


窓から差し込む月灯りだけを頼りに、静まり返った夜の城を行く。






一階の回廊から中庭に歩み出れば、リアムは先ほどと同じ位置でソフィアを待っていた。


夜風に揺れるライラックの花が、甘やかな芳香を漂わせている。


「リアム、いつからそこにいたの?」


「少し前からです。ソフィア様が、俺を呼んでいる予感がしましたので」


輝く月色の髪をした若き騎士は、膝をつき恭しくソフィアの手を取った。


そして、右手の傷痕に唇を寄せ今宵もソフィアに忠誠を誓う。






リアムの唇が触れた箇所がジンと熱を持ち、ソフィアの体に生気を送り込む。


緊張と不安でがんじがらめだったソフィアの心を、リアムの存在があっという間に解きほぐしてくれた。


久々に味わう安堵感。ソフィアは、泣きたくなるのを必死で堪えた。


ああ、願わくは。この幸せな夏の一夜が、いつもより長く続きますように。






「リアム、来て」


ソフィアは忠実な下僕の手を取り、夜の闇に沈む庭園を奥へと進んだ。


アーチをくぐり、バラ園を抜ければ、温室の前に広がる芝生広場に出る。


「一緒に、寝転びましょう」


リアムを促し、二人仰向けになって夜空を見上げる。
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