冷酷な騎士団長が手放してくれません
「あなたに、会いたかった」


仰向けになったまま、ソフィアはリアムに向けて柔らかく微笑んだ。


リアムは青い瞳を一度瞬くと、少しだけ嬉しそうな顔をした。


「何か、お辛いことでもあったのですか?」


ソフィアは、小さく頷く。


「差出人不明の手紙が来たの。故郷に帰るように、という内容だった。とてもひどい言葉遣いで……、とても恐ろしかったわ」


眉根を寄せ、真剣な顔つきになるリアム。


「その手紙は、どうなさったのですか?」


「怖くて、捨ててしまったわ。とてもじゃないけど、持っていることなんて出来なかった」


「犯人に、心当たりは?」


「ないこともないけれど……。証拠は、どこにもないの」


「殿下に、このことはお伝えになったのですか?」


「言っていないわ。こんな些細なことで、国を司る殿下の心を煩わせたくないもの」






一瞬だけ、リアムが思い詰めたような顔をする。


「ねえ、リアム。私、どうしたらいい?」


真摯に問いかけるソフィアを、リアムは真顔で見つめた。


吹き荒れた夜風が、露に濡れた草と土の香りを二人のもとへ運ぶ。







「何も、心配なさらなくて大丈夫です」


伸ばされたリアムの手が、風で乱れたソフィアの後れ毛に触れた。


そして蜂蜜色の髪を指先に絡めると、優しく耳もとに唇を寄せる。


「あなたのことは、俺が命に代えてもお守りします」


それは、心の奥底に重く沈み込むような、深い囁きだった。
< 93 / 191 >

この作品をシェア

pagetop