冷酷な騎士団長が手放してくれません
「また、会いに来ます」


回廊の前までソフィアを送ったリアムは、声音を強めてそう言った。夜の城はまだ静寂に包まれているが、これ以上の長居は危険だ。騎士との夜中の逢瀬を他人に見られたら、あらぬ噂が立ちかねない。


「次は、いつ来てくれるの?」


「あなたが望むのなら、毎日でも」


ここに来るまでの間ずっと繋がっていた二人の手が、すっと離れていく。夜の空気に放たれた指先が心許なくて、ソフィアは無意識のうちにぎゅっと握りしめた。


その時、どこからともなく妙な物音がした。


不審に思ったソフィアは、後ろを振り返る。








だが、次の瞬間。


「ソフィア様……!」


小さな叫びとともに、拐うようにリアムに体を抱きすくめられていた。


――ドスン!


ソフィアを抱くリアムの背後に、上空から重量感のあるものが落ちてくる。


「え……?」


ソフィアは、リアムの肩ごしに茂みを見つめ、唖然とした。


直径三十センチにも及ぶ重厚な大理石造りの壺が、転がっている。


「どうしてこんなものが……」


もしも頭に当たっていたら、ひとたまりもなかっただろう。今さらのように、ソフィアの全身が凍り付く。






リアムは腰に提げた剣の柄に手を掛けると、素早い身のこなしでソフィアを背後に隠し、上空を見上げた。


二階に玉座の間が、三階には礼拝堂がある位置だった。どちらのバルコニーにも人影はなく、もちろん本来はどちらにも人はいないはずの時間帯だ。


「誰かが、私を狙ったのかしら……?」


震える声を出せば、緊迫した表情のリアムがソフィアを振り返った。


若き騎士はその目に闘志を見せると、もう一度睨むように頭上を見据えた。
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