happiness
書いて、ない、か。
しょんぼりとしながら、紙を裏返す。

『そうなんだ。可愛い名前ですね。僕、趣味が読書なんですけど。趣味とかって、あるんですか?』

そう書いてあった。
何?この人。
私のこと、知ろうとしてる。
好きな人のことって、そんなに知りたいものなのかな。
私には恋心が理解できず、戸惑ってしまう。
でも、私のことを知ろうとしてる。
だったら、私も!黒川くんのことも、教えてもらう!

『趣味はないけど。お菓子を作ったりは、するよ』

そう書いておいた。
あれ?
私は、このときに気づいた。
昨日の紙では、ないことに。
新しい紙だ。これ。
紙を、そっと撫でる。
黒川くんって、几帳面な人なのかな。


ふふっ。
誰もいない廊下に、私の笑い声が響いた。
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