愛される自信をキミにあげる
 デート、か……。
 ウェディングプランナーという仕事をしているくせに、今まで一度も男性とデートをしたことはない。
 キスだって、三条課長が初めてだ。
 恋人のフリではなくて、本当に三条課長と付きあっていたら、どういうところに行っていただろう。
 遊園地……なんて子どもすぎるか。あたしの頭の中は、中高生が想像するようなデートプランしかない。
 ドラマなんかでは、素敵なレストランで夜景を見ながら食事をしていたり、海辺近くの公園を歩いていたりするけれど。
 あたしと三条課長が並んで夜景を見ている姿を想像してみても、なんだかなぁという感想しか出てはこない。
 すごく素敵だとは思うけれど、ピッタリとハマらない。
 たとえば、三条課長のとなりにいるのが麗だったら、と考えるとそれはもうパズルのピースを嵌めるようにピタリと合致する。
 ダメだなぁ。
 麗にも言われたけれど、こうやって卑屈なところがダメなんだ。
 あたしだって出来ることならもっと自信を持ちたい、そう思っていても幼い頃からの性格はなかなか変えられない。
「何を考えてるの?」
 突然聞こえた美声にハッと顔を上げた。
 一緒に帰ろうと連絡をもらって、三条課長と歩いているところだった。
 ぼんやりと物思いにふけっている場合ではない。
 キスのことを思い出せば普通に喋ることもできないからと、つい考え込んでしまった。
「ごめんなさい……何でもないです」
「謝ってほしいわけじゃないよ? ただ、笑留が悲しい顔してたから、気になっただけ。ね、もう遅いけど、ちょっとだけデートして帰ろっか」
 キュッと手を握られて顔に熱がこもる。
「デート……」
「うん。こうやって一緒に帰るのも、デートっちゃデートだけど。今日はちょっとだけ寄り道」
 ね、と指が絡まって、あたしの頬に一気に熱が集まった。


 三条課長に連れてこられたのは、落ち着いた雰囲気のあるバーだった。
 薄暗い店内はカップルのお客さんが多いが、ひっそりと静かだ。
 流れるジャズの音と、ヒソヒソと小さな声が時折聞こえる。
「お腹空いてる?」
「少しだけ」
「苦手なものはある? お酒は飲める?」
「特にないです。お酒は、ちょっとなら」
 聞いたことに答えるしかできないなんて。自分が恥ずかしくなる。
 三条課長は気にする素振りもなく、カウンターのスツールに腰掛けて、バーテンダーに注文を入れた。
 少しして目の前に置かれたグラスはオレンジジュースのようだった。
「カンパリ・オレンジ。飲みやすいよ」
 何度か居酒屋で飲んだことがあったから、味の想像はついた。
 いただきますと口に含むと、思っていたよりずっと美味しくて顔がほころぶ。
「そうやって笑ってる方がずっと可愛いよ」
 カクテルと同時に運ばれてきたチーズを口元に近づけられて、無意識に唇を開けてしまう。
 あーんしてもらうとか、あたしは一体何をしてるのだろう。
 三条課長の指が唇に触れて、また胸がうるさく音を立てる。
 もちろんチーズの味なんか全然わからなくて、必死に咀嚼しながら飲み込んだ。
「で、どうしてさっきあんな顔してたの?」
 あたしを案じるような顔で、三条課長が問いかけてきた。
「あんな顔、がどんな顔かわからないんですけど……小さい頃のこと、思い出してたからかもしれません」
 誰にも話したことはない。
 昔のこと──。
「俺が聞いてもいい? っていうか、知りたいんだけど」
「おもしろい話じゃないですよ?」
「キミがどういうことで悲しむのか、ちゃんと知っておきたいんだよ。そうすれば傷つけなくて済むだろ?」

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