愛される自信をキミにあげる
 三条課長に抱きしめられたまま、何十分が過ぎただろう。
 たまに触れるだけのキスをされる。
 唇が離れると、頬を撫でたり、癖の強い髪を指に絡め取られて遊ばれる。
 別に何をするでもなく、時折他愛のない話をしながら、たた怠惰な時間を過ごしていた。
 緊張感のないそれがすごく心地よかった。
 両腕に包まれていると温かくて、ふわとあくびが漏れた。
 壁に掛けられているインターフォンがけたたましく鳴り響かなければ、このまま抱き締められたまま寝入っていたかもしれない。
「英臣さん……? でなくていいんですか?」
「なんか、勧誘とかじゃない? 面倒だからいいよ」
 三条課長の言葉を外で聞いていてまるで違うとでも言うように、続きざまにピンポンピンポンとインターフォンの音が響いた。
「誰だろ。笑留、ごめんね」
 慌てるでもなくそっと髪を撫でられて、三条課長が立ち上がった。
 ピッと電子音がして外の音が聞こえた。
『居留守使ってるのはわかってるんだ。さっさと出てきなさい』
「父さん」
 不機嫌そうな声が聞こえたかと思えば、相手は三条課長のお父さんらしい。
 どうしよう。
 あたしは、やっぱり帰った方がいいんだよね。
「ちょっと待ってて。今、彼女が来てるんだ」
『なに、麗ちゃんか?』
「違う。だから待っててって言ってるでしょ?」
 インターフォンの通話を消すと、三条課長は疲れたようにため息をついた。
 なんてタイミングの悪さだろう。
 多分あたしが今ここにいるのは、凄くまずい気がする。
 麗のご両親も、三条課長のご両親も二人の結婚には賛成だという。
 麗にはほかに好きな人がいて、一応三条課長もあたしのことを好きでいてくれているから、それを説明すればいいだけ……のはずだけど、こういったことには前もって段取りがあるはずだ。
 三条課長のお父さんは、麗が恋人だと思っているのだ。
 あたしが突然会うのはどうなのだろう。
「笑留、ごめんね。ちゃんと紹介するタイミングとかも考えてたんだけど、あの人突然くるから」
「あ、あの……あたし、帰った方がいいですか?」
「このまま紹介してもいい? 彼女が来てるって言っちゃったし」
「こ、心の準備がっ……」
「ははっ、だよね。笑留は普通にしてていいよ。別に話しちゃいけなこととかもないよ。俺たちが恋人同士っていうのは本当のことだからね」
 だから、堂々としてていいんだと背中を押された。
 三条課長の言葉は不思議だ。
 あたしに、元気と力をくれる
 さっきとは違う音で、再度インターフォンが鳴る。
 おそらく、一階ロビーからの呼び出し音と分けているためだろう。
 今のは、部屋の前に着いた時に鳴る音だ。
 三条課長が、応対するために玄関へと向かう。
 あたしも挨拶のため慌てて後を追った。
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