恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
翔は、岸川さんの車の中でも話していたこと――家具店のプレイルームで何をして遊んだのか――や、自分が通うことになるみのり園のことなどを、また私に話して聞かせてくれている。
私は苦笑を浮かべながら息子の話を聞きつつ、頭の中では別のことを思っていた。

・・・自分がふしだらな女じゃなかったと知って、正直ホッとした。
と同時に、自分があまりにも未熟で、男の人について、いや、岸川さんという人について、あまりにも知らなさ過ぎた。
もっとも、岸川さんとは10年前のあの日が初対面で、合コンで出会って一晩――だけど、結局半日足らず――しか、一緒に過ごしていなかった。
加えて私はあのとき意識が混濁していて、何を話したのかすらロクに覚えていない状態だ。
そこから彼の全てを知ることは無理だっただろう。

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