恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
たぶん今晩、壮介さんは家に帰るだろう。久しぶりに。
だからこそ、一刻も早く家を出る必要があった。

私が本気で離婚をしたいと、あの人に分かってもらうために。

新幹線が軽井沢駅を通過した。
「おなかすいた」という翔に、あらかじめ買っておいた子ども用のビスケットを1枚、あげた。
翔は喜んで食べながら、外の景色に見入っている。

もう引き返せない・・ううん、絶対、引き返さない。

ウジウジしていた今までの私に「さようなら、卯佐美湖都」と、心の中で告げた。

私はこれから、翔と二人で強く生きる。
翔のためにも強く生きなきゃ。

窓に映る桜の木に、花はまだ、咲いていない。

息子は絶対、私が育てる。
壮介さんには渡さない―――。

私の内で、翔と二人、新たに生きる決意は、蕾同様、固まっていた。

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