恋よ、来い。 ~傷心デレラの忘れもの~
父は、残された家族、というより母のために、保険をかけていた。
保険金と、父が勤めていた会社からの退職金を受け取った母は、そのお金を元手にして、なんと、「喫茶店を始めます」と私と姉に宣言したのだった―――。
しかも、母からその宣言を聞いたのは、母がすでに喫茶店を開く店舗を決めて、支払いまで済ませた後という・・。
いわば、「宣言」というより「事後報告」と言った方がいいような形だった。

父が遺したお金をどう使うかは母の勝手だから、姉や私があれこれと口を挟むつもりは全然なかった。
だけど、お店の経営等した経験が一度もない母が、なぜ喫茶店の経営をしたいと思ったのだろう・・・。

『実はね、お母さん、前から考えてたのよ』
『喫茶店を経営するって?』
『そう。ホントはお父さんが定年退職した後でって思ってたんだけど・・ま、予定が少し早まっただけね』
『ふぅん・・・』

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